2025年3月

 先日東京から新幹線で帰っていたところ、隣席の男性がずーっとパソコンで仕事をしていたのに強い印象を受けました。「そんなのいつも私はやっている。」という方もおられるでしょうが、私は乗り物の中ではできるだけリラックスするのが好きです。
 空いた時間の使い方は人それぞれなのですが、最近はどこでもスマートフォンの画面をじっと見ている人が圧倒的多数を占めています。余計なお世話なのですが目が疲れないか首が痛くならないかなどと気になりつつ、私は移動中でも待ち時間でも大体ぼーっとしていることが多い気がします。
 患者さんを診察したりスタッフの話を聞いたりする私の日常では、「ストレス」や「大変」という言葉が出てこない日はないと言ってもいいぐらいです。また同時に「何もすることがない」「やる気が出ない」というお話もよく耳にします。スマホやパソコンを長いこと見続けている方々と、日常の辛さやしんどさを訴え続ける方々が沢山周りにいる訳です。この両者が妙につながって見えてしまうのは気のせいでしょうか。
 時間を無駄に過ごしたくない、時間を有意義に使いたいというのは確かに健全な感覚だと思います。予定表に白い所が多いと不安になるという人もいますし、「忙しい」が口癖になっている方々にもよく出会います。透析専門医である私は何かと拘束の多い日々を過ごしていますが、大したことはしていない時間も結構あるように感じています。だから「大変なんです」「ストレスなんです」という人の言葉を拝聴する側に回ることが多いのかもしれません。
 パソコンやスマホから目を離して一人でじっとしているのは、そんなにおかしなことではないように思います。別に怠けている訳でもない。冒頭の男性は神戸辺りで新幹線を降りましたが、私はまた人のストレスや忙しさと向き合う毎日に備えて、岡山までぼーっと新幹線に乗っていました。

もみじ3月号 四方山話より