2024年6月

 日本透析医会は医療事故について、何千もの透析施設を対象に定期的な調査を行っています。当院を含めて透析に関わる出血事故や転倒事故などは一定数の報告があり、全国に目を向ければ死亡に至る重篤な例もあるのが実情です。入院病棟や手術室と同様に、透析室もまた確率は低いとは言え重大事故が発生しうる場所です。
 今年1月には羽田空港で大きな飛行機事故がありました。医療も航空業界も優秀な人材により事故防止に対して大変な努力がなされている分野ですが、完璧な安全達成は困難です。総社の透析施設である当院でも、重大事故の可能性が完全に消え去ることはありません。
 医療従事者を管理監督しミスや勘違いに厳正に対処することが、長らく医療安全対策の主流でした。それに対して、患者さんの安全に貢献するようなよい働きやアイディアを賞賛、奨励するような試みが先進的な透析施設で始まっています。冷たく厳しい目で監視される状態と、温かく支えられる環境で仕事ができることと、どちらが人の力をより引き出すのかに関心が集まっています。
 ともすれば不人気となりがちな安全対策活動を医療施設の内部で続けるには、自分達にとって都合の悪いことにもしっかり目を向ける勇気が必要です。同時に、安全対策の名の下に自分を過度に正当化したりしない謙虚さも大切である気がします。悪者探しや批判よりも、穏やかで粘り強い取り組みが医療現場の安心や安全を育んでいくのではないでしょうか。
 医療事故に遭って辛い思いをされた患者さんに真摯に向き合い、また医療の担い手にも敬意や感謝の思いを忘れずに接している。そんな優しさと勇気をもった人が、今日も私の周りで透析医療を支えていると感じています。事故の危険を想像すると過剰な不安に駆られる小心な私も、責任者として着実に安全性の向上に努めたいと思います。

もみじ6月号 四方山話より