2024年5月

 4月からは新学期で、当院の近所でもピカピカの一年生が黄色いカバーをした真新しいランドセルを背負って登下校しています。総社市内は信号のない横断歩道も結構多いのですが、小学生など歩行者優先で自動車が停止する光景は大分増えました。
 仕事や日常生活では、自分と相手のどちらを優先させるか迷うことはないでしょうか。もちろん建前としては、人に先を譲る行為の美しさは誰にも否定はできません。しかし平気で自分の都合を押し付けてくる相手に何だかもやもやする、どうも納得がいかない、というのもよく聞く話です。
 医療施設が患者さんの立場をよく考えているか、医療従事者の都合ばかり優先していないか。これは我々が繰り返し問い直さなければならないことです。一方で最近カスタマーハラスメントと言われるような、医療施設への過剰な要求が問題視されている事実もあります。
 子供やお年寄りに先を譲ることには、抵抗感を持つ人は少ないでしょう。では元気そうな人が「譲ってもらうのが当然。」と言わぬばかりの顔をしていたらどう感じるか、なかなか微妙な所です。しかしそこでも淡々と人に先を譲る習慣を重ねていくと、先に何か良いことが待っているような気もします。
 毎日自動車を運転していると、人を押しのけてでも自分が先に行きたいという車をたくさん見かけます。そこで自分も負けずに先に行ってやるぜと息巻くのもいいのですが、日頃私が尊敬している方々の顔をここで思い浮かべると、自分が取るべき行いもおのずと決まってくるようです。敢えて人に譲ることができるのは、一種の生きていく力なのでしょう。
 マウントを取るなどという言葉が幅を利かせる昨今ですが、ピカピカの一年生がどこで自分を見ているか分かりません。一見弱そうで頼りなさそうだとしても、多くの人に「お先にどうぞ」と言える大人は何だかいいなあと思います。

もみじ5月号 四方山話より