2024年3月

 早くも3月になりました。年度末とはいいながら、すでに新年度の準備が始まるという方もおられると思います。フレッシュとかチャレンジという横文字をよく目にするのもこの時期で、街を歩いていても若い人たちの活気が羨ましいような気がします。
 先日亡くなった指揮者の小澤征爾さんは、80代になっても音楽への情熱を燃やし続けたそうです。それは音楽という芸術の力や素晴らしさを揺るぎなく信じていたからではないかと思うのですが、この偉大な音楽家に比べて凡人の私は日々動揺してばかりです。安全性と利便性、優しさと厳しさ、協調性と自律性、働くことと遊ぶことなどなど、一見相反するような考え方の間で右往左往しています。
 マニュアルや規則の通りにしていればいいという考え方に時々出会いますが、診療の現場では明確な正解はないことが多いような気がします。特に人と人の意見や意向が分かれた時にどうするか、透析室のように大きな部屋で大勢の方が治療を受けたり仕事をしたりしている状況ではしばしば悩むことになります。
 あちらを立てればこちらが立たず、矛盾や不公平、不条理だらけの状況には簡単に答えはみつかりません。そんな時、「言葉や理屈では割り切れないことを表現できる。これは音楽の重要な役目である。」と言う指揮者もいたことを思い出します。目の前の矛盾の大きさは、何かとても大切なことを自分に示しているのではないかと励まされる気もします
 小澤征爾さんは長々と自分の考えを語ることより、子供や若者のように真っ直ぐな感性を大事にしていたとも聞いています。矛盾や不条理と共存しながら考え続け、行動につなげる姿勢を保つことが若さの現れなのかもしれません。
 春を迎え、また年を取ったなあと後ろ向きになるより、音楽に繰り返し耳を傾けながら「まだまだ何か出来ることがあるはずだ。」と考えてみたいと思います。

もみじ3月号 四方山話より