2023年3月

 私が高校生の時、クラスメートのUくんが黒板に担任の似顔絵を大きく落書きしました。みんなには大受けでしたが先生は怒り心頭、どすを効かせた声でUくんを責め続けます。イラストがうまくていつも穏やかなUくんは淡々と怒られていました。落書きは勿論よくないことですが単なる悪ふざけでやったようにも思えず、とても印象的な事件として私の記憶に残りました。
 私も中学高校の頃は決して先生に可愛がられる生徒とは言えませんでした。先生や大人の言動はいつも納得のいかないことだらけです。そんな私も50を過ぎたおじさんになり、今では若い人に腹を立てることがある訳ですから本当に勝手なものです。
 「許せない。」「見るのも嫌だ。」などと人を責め立て嫌悪する言葉は、今の社会に溢れています。あちら側とこちら側に人々を分断し、気に入らない相手をとにかく一方的に批判する。そんな構図が好きな人はどこにでも一定数おられるようで、医療の現場でも似たような現象が時折見られます。どうも息苦しいなと感じるのは私だけでしょうか。
 立場が違えば衝突が起こるのはある程度仕方のないことですが、どこかにユーモアや抜け道があるとより多くの人が救われる気がします。若者もいずれ大人になり、大人もいつかは高齢者の仲間入りをします。少々無理なお願いをするのも頭を下げて許してもらうのも、自分がいつどちら側になるか分かりません。
 あの先生の似顔絵は今思い出しても何だか笑えます。そこには静かな反骨精神も感じられました。人に何かを伝えるとき、いかに相手を追い詰めずに効果を上げるか。強くて大きな相手を前に、どうすればちょっと勇気を出せるのか。Uくんにはイラストの力がありましたが、今の私はこれを開業医として考えなくてはならないようです。

もみじ3月号 四方山話より