2023年11月

 先日知人から、聞き上手に関する本をお借りして読むことになりました。よいリーダーは聞き上手だということで、院長としてはなかなかに興味深い問題です。
 一時期リーダーには明確な理念やメッセージを発信する力が重要だと言われ、あちこちの病院でもロビーやホームページにその理念が掲げられているのをよく見かけました。最近は岸田総理の影響なのか、人の話を聞く力がリーダーには必要なのだと言われることが多いようです。
 さて問題のその本なのですが、これが結構むずかしくて分かりにくいのです。「自分のことをあまり喋らない。」とか「分かります、と安易に言わない。」とアドバイスされているのは理解できました。しかし答えにくい質問にどう答えるか、素直な心で耳を傾けるとはどういうことか、などのくだりにくると何度読み返しても著者の言いたいことがつかめません。これは一体どうしたことでしょう。
 人と接していると、一筋縄でいかないというか相手の不可解な態度に戸惑うことはないでしょうか。聞き上手には、まさにその「分からない」ということが関係するようです。人のことを簡単に分かったつもりになるのは確かに危ういことです。
 理解できないこともありのままに受け止めてみることが、人の話を聞くうえで大切なのかもしれません。これは簡単にすぐできる訳ではないのですが決して無理でもなく、実際に聞き上手な方は私の周囲にもおられます。自分の信念を持っている方は立派だと思いますが、あまりそれにこだわり過ぎると物事は進みにくくなる気がします。世の中は自分と考え方が合う人ばかりではないからです。
 聞き上手とは相手も自分も同時に大切にするという一種の矛盾を持った存在のようです。私にはそうした矛盾はとても魅力的であり、医療の現場でも是非考え続けたいことだと感じています。

もみじ11月号 四方山話より