2022年8月

 演説中の元首相が暗殺されるという信じられないような事件を経て、この度大きな選挙が終わりました。あの大事件が今後社会に及ぼす影響は測り知れませんが、今はただ冥福をお祈りするばかりです。
 選挙によって多くの支持を得た人や政党が権力を持ち、重要な議題は多数決で決めるという民主主義の仕組みは既に日本に定着しています。非道な暴力や独裁による支配などは到底受け入れられません。しかしこれは少数派や立場の弱い人のことは軽くあしらっていい、という訳ではないはずです。多数派の意見で全てを押し切ろうという傲りは、深いひずみを身近な所に残しかねません。
 医療の現場でも、関係者の意見は時に対立します。有力者や多数派の意向は分かるのですが、声の小さい人達の希望はどうなるのか気になる場面も多々あります。ここで一気に多数決に走る前に、リーダーの資質が問われるように思います。反対派の意見をよく聞いたのか、理解を得る努力には時間をかけたのか、私も院長として考える必要があるようです。
 政治でも医療でも言葉による意思疎通はとても大切ですが、沈黙の力、言葉でない力も医療現場では日々強く感じます。それは心から窮状を訴える声なき声のこともあれば、少々強引に自分の都合を押し付けてくる意志のこともあります。沈黙の力と正しく向き合うために、私には医師としての原点に返る姿勢と、穏やかに祈る習慣が大切な気がしています。大きな声で立派なことを言うよりも、時間をかけてあれこれ悩む方が私の性に合っているようです。
 独裁権力でも多数決万能でもなく、本当に困っている人の傍で自分も悩み続けることはできないか。演説も根回しも下手な私に政治家のような影響力はありませんが、これからも総社の開業医としてこの課題に取り組んでいくと思います。

もみじ8月号 四方山話より