2022年6月

 私は内科医なのですが、精神的なストレスについて人からお話を聴いている時間が仕事で一定の割合を占めています。つらさの原因は病気ばかりでなく、対人関係であることも多いように感じます。大声を出されたり意地悪をされたりと、誰でも対人関係に多少のストレスを感じつつ生きているのが現代社会なのかもしれません。
 理解や共感を得やすい人と多く接していれば自然と表情も穏やかになるのでしょうが、つらい思いをすることが多ければ顔つきまでこわばってきます。相手が嫌なことをしてくるのだから、こちらばかり愛想よくもしていられないというところでしょうか。また自分が居心地の悪さに耐えているんだ、と人に分かってもらいたい事情もあるでしょう。
 腹が立つというのは一種の生理現象で、あまり我慢しすぎるのは体にもよくない気がします。しかし怖い顔をして延々と誰かの悪口を言っている自分自身に気づいて、何だか嫌になることも多いと思います。血圧も上がってきそうですし、むしゃくしゃするあまりせっかく控えていたお酒や甘いものに手が伸びると、血糖値や肝機能も悪くなります。
 夜の落ち着いた時間にでも振り返ってみれば、腹の立つあの人にも良いところの一つや二つはあったことを思い出します。100%嫌なところばかりの人はいないし、完全無欠のいい人もまた存在しません。今の生活がストレスだらけに思えても、意外に恵まれているところもあったりします。甘いと苦い、好きと嫌い、悲しいと嬉しい。まるで正反対のことが同時に起こっている状態は、理屈には合わないようですが自然なこととも言えます。
 悩みやストレスを抱えている人の話には、理屈で言葉を返しても効果は乏しいそうです。答えのない混沌に共に向き合い続けることで、何か光が見えてくるのではないか。そんな希望を抱きながら、また様々な言葉に耳を傾けていきたいと思います。

もみじ6月号 四方山話より