2022年11月

 先日電車に乗って移動しながら、高校生の頃をふと思い出しました。電車通学の途中では、たまに他校の生徒に「オイ、こら。」と因縁をつけられていたものでした。「わあ、困った。どうしよう・・」と怯えるばかりの私には、漫画みたいにかっこよくやり返すなど夢のような話でした。
 大人になっても世間には、様々に形を変えた恫喝や嫌がらせがあるものです。もちろんここでも映画やドラマのように、理不尽な相手に対して胸のすくような対応ができる訳ではありません。今日も多くの皆さんが、腹が立つのをこらえて自分の仕事やするべきことを黙々と続けておられるのだと思います。「もう、バシッと言ってやりなさいよ。」という声が聞こえる気もするでしょう。
 
いつもやられてばかりの自分、強気に出られない自分は弱くて情けないと感じるかもしれません。それでも長い間仕事を続けていると、案外そうでもないと分かる気がします。意外にこの弱さが、生きる力の一つなのではないかとさえ思えてきます。
 言葉や態度、優位な立場を利用して人を不安にし、従わせる。こんなやり方を便利に感じている人は世の中に一定数いるようですが、医療の世界ではやはり人とのつながりや地道な努力が大きな意味を持つと思います。自分の弱さや無力さが分かっているから人に感謝し、また人の痛みや苦しさに目を向けることができます。
 最近はロシアなどの国が、暴力で他者を支配しようという考えをあからさまに示しています。もし日本とどこかの国の間で戦争が起これば透析医療は壊滅的な打撃を受けるでしょう。安定した医療には平和が欠かせません。少々威圧され踏みつけられても穏やかに医療を続ける意志は、ただの弱気とは違うのではないでしょうか。
 また私も誰かに脅されることがあるかもしれませんが、そんな時はもうちょっと自信を持ってぶるぶる震えていようと思います。

もみじ11月号 四方山話より