2020年4月

 あっという間に世界中に広がってしまった新型コロナウィルスを、不安に感じておられる方も多いことと思います。腎不全や糖尿病など持病のある方が感染すると重症化しやすいという情報もあり、透析施設は特に大きな不安要素を抱えているのは間違いありません。限られた時間とマンパワー、資材の中で一体我々はどうしたらいいのか、自信満々に答えられる人はいないでしょう。
 先日何故か突然トイレットペーパーが手に入らなくなったという事態が示すように、ウィルスという目に見えない敵との戦いは、しばしば人をパニックや疑心暗鬼に陥れます。こういう時には、特に医師という立場にある場合、言葉に気を付けなくてはいけないなと感じます。誰かが発した不用意な言葉が、おかしな雰囲気や判断を周囲に広げてしまうことがあるからです。
 イタリアでのウィルスの蔓延は、ボディタッチなどの触れ合いを重視する生活文化が一つの要因ではないかという意見を聞くと微妙な感じもします。しかし少なくとも感染した人を変に差別したりするようなことがあってはいけません。人と人とのつながりは、苦難に直面した時こそ大切です。危険性を正しく伝えることは欠かせませんが、人を落ち着かせたり元気になってもらったりできる言葉とは何か、と考え抜くことも大事なようです。
 第二次世界大戦のロンドン大空襲では、苦境をユーモアで乗り切ろうという人々もいたそうです。この大変な時に不謹慎だと怒られるかもしれませんが、誰も傷つけずに人の心をふっと軽くできるのであれば、時には笑いもいいのではないでしょうか。私自身は話し上手でも何でもないのですが、人を和ませることは何かないかと考えながら、まだ続くウィルスとの持久戦に臨みたいと思います。

もみじ4月号 四方山話より