2020年10月
 「面倒なので、私はあまり関わらないようにしています。」という話を、考えてみればあちこちでよく耳にします。ちょっと聞くと、成程これは生きる知恵というか賢いやり方だな、と思えます。ただその一方で「お願いします。」というお言葉も、仕事をしていると毎日山ほど頂くものです。この二つを並べて振り返ってみると、どうにも苦笑せざるを得ないのが正直な所です。
 医師不足、医師の偏在、ということが問題視され始めてからすでに長い年月が経っています。いる所にはお医者さんはいっぱいいるけれども、足らない所には全く足りなくて困っている。という訳で、国や自治体、大学の医局などでは解決のためにあらん限りの知恵が絞られてきました。
 医師に限らず、例えば看護師など医療スタッフは皆さんどういう基準で働く所を選ぶのでしょう。「大変そうなところ、面倒なところ」からは、すーっと足が遠のく、ということもあるのでしょうか。しかし周囲に人が寄り付かないという事態は、自分の身に降りかかってくるとなかなか大変です。一定のお金や権力を持っていても、実は孤独に苦しんでいるというのはよくある話です。色々な方々に色々な権利が認められる世の中ではありますが、権利や権力を振りかざすだけでは、どうも心穏やかな毎日は縁遠くなるようです。
 孤独な人同士も二人一緒にいれば、単に孤独なだけではなくなります。解決や宥和など簡単には見いだせなくとも、共に悩み苦しむ過程で何かが変わって来ることを経験します。私は透析を専門にする医者ですが、そんな感じで患者さんや周囲の方々に救われてきたと実感しています。面倒を避けて要領よくやるのもよし。しかしまた「お願いします。」と言われつつ、色々な人と敢えて一緒に苦労してみるところにも道があるようです。
もみじ10月号 四方山話より