2019年9月

 「一人では生きられないのも芸のうち」という言葉を数年前に聞いて、折に触れて思い出しては勇気づけられています。
 猛暑に見舞われたこの夏もまた、私は様々なピンチを多くの方々に助けて頂きました。医者だ、院長だといっても本当に私は一人では何もできません。良いスタッフに支えられて初めて日々の診療が成り立っている訳です。またうちのクリニックでは対応不能な事態も多く、他の医療機関の方々にどれだけ救って頂いているかわかりません。更に、常勤医は院長一名の透析クリニックであり非常勤の先生方なしには診療の継続は困難と言えます。本当に皆さん有難うございます。
 そもそも開業医という仕事自体、患者さんが来られないことには成立しません。さすがに患者さんに「有難うございました!」と声をかけるのは物議を醸しそうですが、医者である私が患者さんによって生かされているというのも一面の真実です。
 ではこのように人の力によって何とか日々を過ごしているような自分は、何の価値もない無意味な存在なのでしょうか。社会や世の中の単なるお荷物なのでしょうか。これが、口幅ったいようですが、どうもそうでもないようです。こんな私にもどうやら一定の役割があるような、いやきっとある、と明確に思える気がします。それは人様への感謝の気持ちと矛盾するどころか、補い合うような感じなのです。
 謙虚さを忘れず、まっすぐ前を向いて暮らす。透析に深く関わりながら生きるのは、一見したところ辛くてしんどそうに思うかもしれません。しかし実際には私達は透析を通じて人の温かさを感じ、自分もまた何かの役に立てることを自覚してきました。これからは厳しい残暑や大型台風に悩まされる時期になりますが、人とつながり合う力を信じて、次なるピンチにもまた向かって行けると思います。

もみじ9月号 四方山話より