2019年12月
 仕事の関係で講演や会議など人がお話をしているのを聞く機会は多いのですが、最近気付いたことがあります。お話の後に会場から発言者に対して質問があったとします。その際に、質問を受けた方がまず「有難うございます。」の一言から回答を始めることが多いのです。これは聞いていてなかなか好印象です。さらに、ちょっと意地悪な質問や感じの悪い言葉に対しても、まず「はい、有難うございます。」とお礼から入る姿勢を見ると、勉強になるなあと感じます。
 
感謝の気持ちが大事、というのは大変よく聞く言葉です。ただ実際に暮らしていると、人からお礼を言われる機会はそう多くはありません。その代わり、ここはもっとこうして欲しい、これはこんなことでいいのか、などという要求やクレームは毎日際限なく押し寄せて来るような気がします。その反動か、こちらも感謝どころか不平や不満ばかりがムクムクと湧き上がって、もう治まらないということはないでしょうか。
 そこで、明らかにおかしい、どう考えても理不尽だ、ということに対しても敢えて感謝の表現から自分の言葉を組み立ててみると、ちょっと世界が変わって見える気がします。世間では、お礼や感謝の気持ちを繰り返し表現して下さる方々がおられる一方で、人に脅しや圧力をかけることで自分の利益を図ろうという人にも出会います。しかしどんな人達にも、こちらからまず「有難うございます。」とお返しできるかもしれません。
 次にこんなことを言われたらこう言い返そう、またこんなことをされたらこう切り返してみよう、などと考え始めたらそれだけで疲れが増してきます。やはり感謝の姿勢を通す方が体にも良いはずです。人と人とのつながりや支え合いに感謝の心をしっかり持って、また来年も前に進んで行けたらと思っています。
もみじ12月号 四方山話より