2018年7月

何年か前のことです。町なかを歩いていた私をたまたま見かけた友人に、「リストラされた人がトボトボ歩いているみたい。」と言われました。院長たるものそんなことではいかんと思い、胸を張って堂々と歩いているつもりになっていたある日、今度は違う人から「変に姿勢のいい人がいると思った。」と怪しまれました。まあ人は色々な事を言うものです。
 確かに私は子供の頃から少し猫背で姿勢が悪く、親や先生からよく注意されていました。自然できれいな姿勢というのは、泥縄式ではできないようです。ただ平素から腰や肩などの痛みに関する悩みを患者さんからよく伺うなかで、正しい姿勢と健康との関係が何となく分かるような気がしてきました。程よく背筋の伸びた姿とは、初めは少々窮屈なようでも結局は体への負担が少なくて合理的なのだそうです。ヨガや太極拳などで姿勢や呼吸法のトレーニングを積むことで、あちこちの痛みが消えて体調が良くなったという話も耳にします。
 姿勢は気持ちのあり方にもまた関わります。 正しい姿勢は謙虚さや誠意を表すと同時に、前向きで諦めない気持ちもまた表してはいないでしょうか。お詫びをしなくてはならない場面や、理不尽な敵意を向けられた時など、毎日の生活では適当な言葉が出ずに困ってしまうこともあります。それでもまず姿勢や呼吸を整えることが困難に向き合うコツの一つであるようです。おごり高ぶることも卑屈になることもなく、やるべきことを穏やかに続けていくには背筋を伸ばし、あごを引くことから入るといいのかもしれません。
 10代20代の頃はいくら周囲から注意されても姿勢には無頓着でした。それがもう若くもない今頃になって、少々口の悪い友人に適切な忠告をされたようです。自分の中身がすぐ立派になるわけではありませんが、せめて背筋を伸ばして年を取っていきたいものだと思います。

もみじ7月号 四方山話より