2018年5月

 新年度が始まりしばらくたったこの時期に、少々当てが外れたように思う方はおられないでしょうか。仕事をリタイアして時間ができて、これからはゆっくり自分のしたいようにできると思っていたら、「どうも違う・・」という訳です。仕事や用事に追われていたときは、こんなことがしたいと漠然と思い描いていた。でも今は何をするでもなくただ時間が経っている、というのは私の周りではよくある話です。「私が本当にしたかったこと」とは一体何だったのでしょう。
 仕事にしても子育てや孫の世話にしても、若い頃にやりたいと思っていたこととは大分違うのかもしれません。しかしそんなに嫌なこと、やりたくないことかというと結局そうでもないようです。むしろそんな事に追われている時期の方が傍目にはお元気そう、幸せそうであったりします。
 「もう先が長くもないのに、食べたいものを我慢しても仕方ない」という言葉もよく伺いますが、皆さん本当に心からそう思われているのでしょうか。「人生100年時代」と言われるようになり、腎臓病や糖尿病など慢性の病気を抱えている方の寿命もやはり以前より延びました。先は結構長かったりするのです。
 煙草は吸わず、酒もあまり飲めない、長時間拘束されて、旅行に出たりするのは難しい。一見制約だらけの状態が、案外気持ちいいと感じているのは私だけではありません。始めのうちは我慢だと思っていたことでも、年月が経つとすっかり生活の一部になっています。きれいな新緑やさわやかな空気の有難さが、もっと若かった頃より身にしみて感じられるようにもなってくる気がします。
 ごちそうを食べたり特別な体験をしたりするのが楽しいこと良いことと言われがちな中で、意外に身近で日常の中にある幸せに気づかせてくれる。大した趣味もない私にとっては、仕事や節制とはそういうものであるようです。

もみじ5月号 四方山話より