2016年12月

まずあり得ないと思っていたことが実際に起こってしまう、そんなことを思わせる人物が先日アメリカの大統領に選ばれました。自分とは考え方の違う人を排除し弱い立場の人を切って捨てるような発言と主張が、多くの支持を集めたようであり、何とも言えない重苦しさを感じます。太平洋を隔てたよその国の出来事だと安心していいのかどうか、多くの方々が不安な気持ちを共有しているようです。
 初の女性大統領を目指していた対立候補ではなく、女性蔑視を隠そうともしない男性に何百万人もの女性たちが一票を投じたことになります。これは一体どう解釈したらいいのか。衝撃と困惑はアメリカ国内だけでなく世界中に広がったと聞いています。子供のころから馴染んでいる常識が、根本からひっくり返されそうな感覚とでも言ったらよいのでしょうか。
 人への寛容さや協調の姿勢よりも自分の都合を押し通すような言動のひろがりは、実は世界的な傾向だとも指摘されています。自分達さえよければいいというこの風潮は、保健医療、特に透析医療に対しては非常に厳しいものだと私は考えています。透析医療とはその根底において「助け合い」「お互い様」の精神を前提に成り立っていると思うからです。力を持つ人が弱い人を押しのけるような行動が広がれば透析の明日はどうなるのか、考え込まざるを得ません。
 トランプ大統領誕生に加え南海トラフ地震発生も近いと言われる状況に暮らしている我々ですが、どういう時でも希望を持ち続けることもまた大事です。天災、人災への備えや一定の緊張感は日々保ちながらも、感謝の気持ちや穏やかさを日々思い起こせるか。ちょっと我慢することを自分の喜びと考えられるか。「あんなのにはハッキリ言ってやれ!」とばかりに気勢を上げる人たちの傍らで、本当に大切なものを築き上げていく道のりが、まだまだこれから続いていきそうです。

もみじ12月号 四方山話より