2016年11月

今年は病院や福祉施設の中で、人の命が暴力によって奪われるという事件が続きました。実は以前から、医療機関での暴力は世界的に問題視されています。病院や医院を受診し、あるいはそこで働いていて、何らかの形の暴力や恫喝、威圧に遭遇した経験のある人はかなりの高率に上るのだそうです。病院と関わりのある自分は一体どうしたらいいのか、多少は考えなくてはいけない状況になってきています。
 暴力から身を守るための最善の手段とは何なのでしょう。これはなかなか難しい問いだと思います。やられたらやりかえせるように武装しておく。理不尽な攻撃によって傷つけられることを防ぐために硬いよろいを身に着ける。それとも先制攻撃や示威行動を通して相手の戦意をくじくことでしょうか。考えれば考える程なんだか気が滅入るような感じがしてきます。
 では視点を変えて、暴力が起こりにくい状況を作るにはどうしたらよいか。こちらの方がまだ何とか手をつけられそうです。もちろん正解などないのは分かっていますが、暴力にひるまないということが思い浮かびました。ひるまない、つまり自分が日常続けていることを同じように続けていくということで、テロに襲われたフランスの人達が言われていたことがヒントです。暴力や威圧に打ちのめされるわけでもなく、感情的になって報復するのでもなく、自分の仕事や務め、趣味や習慣を一定の意志を持ってやり通すことはできないでしょうか。
 我々一人ひとりは一面では全く無力かもしれません。しかし人々が長い年月をかけて取り組み続けたことには、圧倒的な暴力さえやわらげてしまうような力を感じます。あってはならない事件のことは忘れない中で、それでも地道に医療の仕事や自分の療養を続ける意志が、医療施設での暴力に対する一つの答えであるように思います。

もみじ11月号 四方山話より