2015年4月

 春は卒業や進学、就職などで「おめでとう」と若い人達に声をかけることが増える時期です。毎日仕事をしておりますと、自分達の所へ新しい人を迎え入れることもあります。当院のように小さな施設では学校や大病院のように毎春恒例とはいきませんが、それでも何故か春は職員でも患者さんでも新しい方がやや多くなる印象があります。
 新しい環境というのは、いつも期待に胸躍るという訳にもいかないかもしれません。昨今は学校や職場でも種々のいじめや嫌がらせが問題化しており、うちの子は大丈夫かしらという親の心配はいくつになっても続くようです。新しく透析を受けることになった患者さんはなおのこと、様々な不安や心配ごとがあっても無理はないと思います。
 ここで私達はしっかりと、「ようこそ!」と笑顔で声をかけなくてはならない立場にあります。職場や学校でも病院でも良いことや嬉しいことばかりではなく、嫌なことや辛いことも待ち構えているかもしれません。そして私のような非力な人間は、若者に対しても患者さんに対しても、誰に対しても、困った問題や目の前の障害を完全に取り去ってあげる能力は残念ながら持ち合わせてはいないのです。それどころか、私自身が壁や障害物となって人の前に立たねばならない時もありますから事は厄介です。
 何があったとしても毎日が何とか無事に過ぎ、子供や若い人達の成長を日々実感できるのは有難いことです。また種々の苦労や試練を乗り越えて生き抜いてきた以上、大人もまたそれぞれ一人一人暖かい祝福を受けて然るべきでしょう。矛盾と理不尽さに満ちた現実の世界で、それでもやはり「ようこそ!」「おめでとうございます」と人を祝福する言葉はいつも忘れずにいたいものです。

もみじ4月号 四方山話より