2015年3月

 若者の間に「一人飯」なる言葉があることを少し前に知りました。昼食を一人で食べているのはとても恥ずかしいことであり、そんな姿を人に見られるのは我慢ならないという意識が背景にあるそうです。言われてみれば、仲間は多い方がいいという雰囲気は大人の中でも濃厚に感じとることができますし、多数派工作というのは政治の世界では重要な活動でしょう。身の回りの情報を収集するにも、一人で孤立していては何かと不利かもしれません。
 物事を決めるのに話し合いや多数決を重視する民主主義は、ナチスドイツやソ連共産党のような独裁制に何とか勝利し、平和と繁栄の基礎となったと思います。人から一方的に理不尽な命令を押し付けられるのは誰でも嫌な筈で、みんなで話し合った上で決めようというのはとても大事なことです。一人でいるのはよくないと考える若者が多いのは無理からぬことでしょう。
 先日市役所からあるパンフレットが届きました。全国で毎年3万人くらいの方々が自ら人生に別れを告げる道を選んでおり、特に若い人での増加傾向が問題になっているそうです。戦中、戦後の大変さをご存じの世代からは信じられないほど恵まれている筈の現代の若者たちも、実は深刻な問題を抱えているようで「一人で昼ごはんを食べるのが辛い」という悩みを笑うわけにもいかないようです。
 「孤独は私の大学であった」と述懐した作家がいました。目の前の壁や障害に一人で向き合う意志が、人を成長させるのもまた事実です。自分が病気にかかった時、誰か一緒に付き合ってもらう訳にもいきません。孤独な状況におかれることで、友人や家族の暖かさや有難みを改めて実感することもあるでしょう。自分が本当に困った時、頼りになる存在とはいったい何か、じっと考えてみるのも悪くないと思います。

もみじ3月号 四方山話より