2015年12月

 早くも師走となり、また冬がやって来ました。仕事や用事に追い立てられるように感じられる季節です。忙しさや体の不調などから心と体が追い込まれやすい時期が来たとも言えるかもしれません。振り返ってみても、今年の後半は悲しいことや落ち込んでしまうような出来事が少し目立った気がします。こんな時は気持ちばかりか表情までも重苦しくなっていき、更にまた体調が悪くなるという悪循環に陥りかねません。
 「笑いとは最高の妙薬である。」欧米で時々使われるというこの言葉に私が出会ったのは最近です。大切な人を見送ったり、お詫びを申し上げたりした人間が笑いのことなど考えるのは不謹慎でしょうか。そんなことで責任を果たせるのか、と厳しい追及を受ける可能性もあります。実際、「お前には自分の意志で笑う資格や権利など一切ありえない」と言わんばかりの態度でこちらに接してくる人にも時々出会います。
 大人の世界で笑いを取り扱うことには、少々勇気が必要な時があります。私の世代で医者になったような先生方は、訴訟に指導監査、パワハラやセクハラといった事柄などで悩み、縛られてきたような思いはないでしょうか。透析の患者さんも食べ過ぎ飲み過ぎを注意されてばかりでは、もう息が詰まってしまうということもあるかもしれません。様々な矛盾や不条理にユーモアや機智で上手に付き合うお手本は、実はうちの患者さんからも度々教えてもらっています。
 私は冗談で人を笑わせるのは苦手な方で、特に顔つきがにこやかで明るい訳でもありません。しかし人の心を暖かくするような笑いやゆとりの価値は十分理解しているつもりです。来年も色々なことが起こるでしょうが、困難を前に敢えて穏やかに笑う勇気も大切にしたいと考えております。

もみじ12月号 四方山話より