2015年11月

 先日ノーベル医学生理学賞を北里大学の先生が受賞されました。イベルメクチンという薬の開発に尽力し、寄生虫の感染に苦しむ多くの人を救ったことが主な業績だそうです。透析や風邪、高血圧などの日常診療に明け暮れている私は根っからの町医者なのですが、自分の仕事も科学の恩恵にあずかっているということをこの度のニュースで改めて意識しました。
 世間には「科学的な治療を心がけています」とホームページで謳っている開業医の先生もおられるのですが、科学とか科学的とは一体どういうことなのでしょう。これには色々な解釈や考え方がありますが、一つ大切なことは「なぜ? どうして? 本当かな?」と疑問を持つことであるようです。
 オレオレ詐欺、というと何年も前から取り沙汰されている犯罪で何を今さらと思う方もおられるかもしれません。しかしその手口は次第に巧妙化しており、岡山県内でも被害額はむしろ増加傾向にあるとのことです。我が子や孫を心配する人の心理につけ込んで金銭をだまし取る悪質な行為ですが、誰かに言われるがままに慌ててお金を振り込む前に「ちょっと待って、何かおかしくない?」と少しでも疑ってみるよう警察は呼びかけています。
 実はより的確な診断と適切な治療のためにも、「念のため確認させて下さい。」と一呼吸おくことは有用です。また医療界の常識で何となく信じられていた処置や治療も、新しい研究結果によって無意味あるいはむしろ有害であったと立証されることがあります。ノーベル賞級の壮大さはなくとも、健全な疑問や好奇心を持つことは私にもできる筈です。強い思い込みで失敗した経験ならたっぷりありますが、ちょっと調べてみたり確かめてみたりすることで、日常の営みに科学の豊かさを生かせる可能性を感じます。

もみじ11月号 四方山話より