2013年12月

今年は流行語の当たり年だったと言うか、流行りすたりに鈍感な私でもいくつかの言葉が思い出されます。特に「倍返し」というのは世代を問わず話題になった感じでした。このきめ台詞と共に悪を討つドラマの主人公に、溜飲が下がるというか胸のすくような思いをした人も多かったようです。
 
確かにいつも言われっぱなし、やられっぱなしでは腹も立とうかというもので、時にはお返しの一つもしないと気が済まない時はあるものです。しかしこちらが倍返しすれば敵もさるもの倍々返し、よーしそれなら倍々倍返し… 何だかきりがないような気もします。
 古い話で恐縮ですが巨人やヤンキースで活躍した松井秀喜選手が、夏の甲子園大会で5打席連続敬遠を受けて敗退した試合を覚えている方はおられるでしょうか。あの時松井選手は怒りをあらわにすることもなく、試合後も相手チームを責めるようなことは一言も洩らさなかったということです。そして、その後の彼の野球界での足跡は皆さんご存じの通りで、確か先日国民栄誉賞も受けていたと思います。あの負け試合から二十数年、松井選手は結局相手チームに勝った訳です。
 向こうの人達は大きな顔で好き勝手にしているのに、こっちはおとなしく我慢しているだけなんて納得できない、ということもあるでしょう。ただどちらが勝ちでどちらが負けか、誰が偉くて誰が弱いのか、本当のところはよく分かりません。大切な人達と共に穏やかで満たされた時間を、より多く過ごせた人が一番であるように思います。「やられてもやり返さない、お返しなしだ!」というのも時にはいいのではないでしょうか。

もみじ12月号 四方山話より