2012年7月

 雨が少ないと言われる岡山でも梅雨や台風はやってきて、時には強い風雨に見舞われる時があります。しばらく前になりますが院長室がよく雨漏りしておりまして、大雨の日などには洗面器やバケツが必要でした。雨漏りの水も、集めてみると意外な量になります。「点滴岩を穿つ」などとも言われ、一滴ずつ落ち続ける水が長い年月をかけて硬い岩に穴をあけることもあるのだそうです。
 
若い頃にはよく「同じ間違いを繰り返すな」と怒られていましたが、実際色々な場面で自分が人を指導する立場になってみると随分勝手が違うものです。最近は繰り返しの効用ということをつくづく感じます。逆上がりや前回りなど、放課後の校庭に残って鉄棒を練習した覚えはありませんでしょうか。手にまめをこしらえながら何日も練習を続けてついにできた、という時の喜びは何とも言えない達成感を伴っていました。
 一口に言うのは簡単でも、実際やってみると大変だということはよくあります。週三回、あるいはほとんど毎日休みなく腎不全や透析と向き合い続けるのも決して楽ではありません。子供の頃何かの本で「ちょろりちょろちょろ五万べん」という言葉を見ました。七転び八起きどころか、五万遍というのはちょっと凄味がありますね。毎日毎日同じことの繰り返しというのはマイナスの意味にとられることが多いようですが、習慣化して半ば体の一部になったかのような営みとは自分の財産にもなり得ます。そこに日々ほんのちょっぴりでも新しい知識や工夫を加え続けることができれば言うことはないと思います。
 ああまたやってしまった、という失敗も数限りがありません。それでも気を取り直してまたもう一度、またダメでも何度でも諦めず投げ出さず、透析という我々の営みもそんな具合に発展してきたはずです。院長室の雨漏りは直してもらいましたが、岩に穴をあけるまで五万遍でも百万遍でも繰り返すような粘りやしぶとさは忘れずにいたいものです。

もみじ7月号 四方山話より