2012年3月

日々いろいろな人と話をする中で「あなたの趣味は何ですか」と聞かれて、はたと困ってしまうことがよくあります。読書とか音楽鑑賞などは当たり前すぎるようで、そう答えても面白くなさそうな反応が返ってきたりします。しかし人様にお話しできるようなちゃんとした趣味がある訳でもなく、聞かれるたびに考え込んでいます。
 私が若くて大学病院に出入りしていた頃には、それこそ仕事こそが我が命というべき先輩方に沢山出会いました。時に猛烈なエネルギーを発散し、時に背中に疲労を滲ませながら昼も夜もなく働き続ける先輩方に尊敬や畏怖の念を覚えたものです。患者さんのためか、医学の発展のためか、彼らを激務に駆り立てる根源はどこにあるのかとよく考えました。しかしそんな仕事だけの生活をずっと続けていたら、恐らく志半ばで倒れてしまうでしょう。一生をかけた長期戦にはそれなりの対処も必要です。
 様々な患者さんとお会いしても、趣味や生きがいのある人は強いなと感じることは多いものです。いくら病気の経過や検査の結果が良くても、それだけでは健康だとか元気だとかいう実感は今一つ湧いてきません。誰に強要されるわけでも誰に迷惑をかけるわけでもなく、自分がしたいと思うことができるというのは大切なことです。釣りにゴルフ、畑仕事や庭いじり、お菓子作り、写真撮影、俳句に川柳とにかく何でもいいわけで、他の誰でもなく自分のためというのがポイントです。
 私の場合、敢えて言うなら運動することでしょうか。中学高校と曲がりなりにも運動部に所属していたこともあり、仕事や日常の必要から離れて歩いたり泳いだりしている時間は心身に活力を呼び戻してくれるように感じます。そう思って先日は冒頭の質問に「お散歩ですかね」と答えたらやっぱり妙な顔をされましたが、まあいいでしょう。忙しい毎日や大変な時にこそ、たとえ僅かでも趣味の時間を敢えて確保する気構えが大事であるように思います。

もみじ3月号 四方山話より