2012年12月

気ぜわしい師走に世間ではバタバタと選挙まですることになりました。アメリカでは大統領を決めるのに大変な手間暇をかけており、日本では政策一つを決めるのにしばしば長い時間がかかります。何をするにしても民主主義とは手間や時間がかかるものだと思ってひょいと近所を見ると、一党独裁の国が経済力や軍事力を拡大していたりします。戦後生まれの我々が空気のように当たり前だと考えていた民主主義が、何だか挑戦を受けているようです。
 指導者や責任者の一存で何でもパッと物事が決まれば、確かに早くて楽だなあと思う面もあります。「まずは相談してから」というやり方は時間がかかって不効率かもしれません。しかし医療の世界は「全部先生が決める」という時代から、患者さんや医師以外の職種の意見も重視するという昨今のやり方に変わってきています。主治医や院長ばかりがいばっている訳にもいかなくなりました。
 新しい政党がいくつかできていますが、『決められない政治』に嫌気がさして斬新な政策をトップダウンでやろうとするリーダーに注目が集まる向きもあるようです。ただリーダーがお金をばんばん使って人々が喜んでいるうちはいいのですが、そのツケはいつか必ず誰かが負担することになります。独裁制が大衆の人気取りや少数派の弾圧、対外的な戦争に走りやすいのは歴史が示してきたと思います。何百年もかけて少しずつ民主的に発展してきた過程を専制や独裁に逆戻りさせれば、人の権利や自由が踏みつけられる時代がまたやって来るかもしれません。
 確かに民主主義でも間違いや失敗は避けられず、「無駄」「意味がない」などとすぐに批判も出てきます。みんなで相談すればそれでいいという訳でもありません。けれども自分が正しいと信じる道は、地道に手間暇をかけてこそ開けていくものでしょう。政治の世界はよく分かりませんが、カリスマ的なリーダーに頼ることなく人の力を集める医療をこれからも目指していきます。

もみじ12月号 四方山話より