2010年9月
 小惑星探査機「はやぶさ」のカプセルが公開されて人気をよんでいます。日本の宇宙開発における快挙に、会場に集まった人からは「感動した」「誇りに思う」などの声が上がっていました。早くも「はやぶさ2」の計画もなされているとのことで、久々の明るいニュースのお陰か科学技術に関心を持つ人も少し増えたようです。
 宇宙開発に限らず、医学や生物学などでも日本のあちこちで優秀な研究者の方々が日夜努力を重ねておられる筈です。しかし華々しく脚光を浴びる技術や研究の成果というのは滅多にあるものではありません。またせっかく画期的な研究や発見がなされても、専門外の素人にはその価値が分かりにくいということもあります。ちょっと前の事業仕分けでは、科学技術の研究費も削減の対象として挙げられていました。
 透析という医学の恩恵に日々浴している我々としては、今日の医療が先人のたゆまぬ努力によってもたらされたという事実を忘れるわけにはいきません。患者さんに直接関わる臨床の現場でも研究室の中でも、それぞれの立場の方々がその才能と努力を傾注して医学の進歩に貢献してこられました。大きな進歩も日一日の地道な営みなくしては成り立たなかった筈です。学術研究というと象牙の塔などと言われて「何をやっているかよく分からないから」という理由で軽視されることがあるようですが、すぐには結果の出ない地道な勉強や研究が日本の科学技術を支えてきたのでしょう。サッカー日本代表の戦果にしても今回の「はやぶさ」にしても、いい結果が出たときだけ周囲が持ち上げて苦しい時には知らん顔をしているようでは先が続かないような気がします。
 地道にこつこつ頑張る人というのは、すぐにすぐ何かいいものを周囲にもたらしてくれる訳ではないかもしれません。画期的治療や世界的快挙といった、分かりやすい成果は確かに魅力的です。しかしそこへ辿り着くまでの粘り強い努力と、それを温かく長い目で見守る視線にこそ最大の敬意を払いたいと思います。
もみじ9月号 四方山話より