2009年9月

 しつこい残暑は続いていますが、朝夕の空気には秋の気配も感じられます。今年の前半は地震や洪水などの災害はもとより、個人的に私の周囲でも突然の災難に見舞われた方が何人かおられました。どんなにきちんと慎重に日々を送っていても厄災とは時に容赦なく我々に襲いかかって来るもので、その理不尽さには言葉もなく立ちつくすしか無いような時があります。そんな時には「こんなことなら、もっとこうしておけばよかった…」などと様々な思いが頭の中を行き来します。本当に、明日のことは誰にも分かりません。
 誰でも将来に対して夢や希望を持ったり、またある時は不安や恐れにとらわれたりしますが、楽しくても苦しくても歳月とはすごい早さで進んでいきます。今年だってもうとっくに半分を過ぎています。行き当たりばったりでなく十年二十年先を見据えた医療や経営を行うことの大切さは私も理解しています。腎不全や糖尿病などの慢性疾患では、日々の自己管理が将来の健康状態を大きく左右します。しかし理不尽で突然な不幸という現実を目の当たりにすると、どうせ何をやっても駄目じゃないかという考えも頭をかすめることがあります。
 しかし本当に、先のことは分からないなら毎日地味な努力をしたりするのは無駄でしょうか。診察の時に「今日は体重頑張って来ました」とご自分から言われる方はそれだけでもう何だかちょっといい顔になっています。ダイエットでも仕事や勉強でも、ちょっとだけ余分に頑張った一日というのは悪いものではありません。そうした僅かなことが一年二年と積み重なるうちに、思わぬ厄災に立ち向かう力をも与えてくれるような気がします。「そんな気の長い話」と思われるかも知れませんが、一年二年なんて本当にあっという間です。
 地震や伝染病など恐ろしげな災難の情報は絶え間なく我々に届いてきます。それに比べて今日このお菓子一つを食べないですますとか、この作業一つをやっておく、資料一つを読んでおくといったことは確かに地味です。簡単なことがいちばん難しいとはよく言われますが、みんなが穏やかな毎日を送れるよう願いを込めて、平凡な努力をまた明日も続けていきます。

もみじ9月号 四方山話より