2009年12月

 先日のことですが、防災訓練の一環で避難器具を使って屋上から降下する練習をしました。胸の周囲にしっかり取り付けた綱を頼りにまっすぐ降りていくのですが、この際両手は体をつり下げる綱から放すのがこつだそうです。屋上の高さで手を放すのは少々勇気がいりますが、綱にしがみついているよりも思い切って手を放し、体に結わえた綱にまずは身を預けた方が却って降下時の怪我が少ないという説明を興味深く聞きました。
 誰にでも、自分の命や家族、財産など何事にも代えがたく大切なものがあると思います。また「自分はこうしたい」とか「こういうことは絶対嫌だ」といったこだわりや思い入れも人それぞれです。大切なものを守り、自分の意志を実現していく方法も人それぞれの経験や能力によって変わってきます。そして自分なりの考え方ややり方が固まってくるにつれて、他人の意見や方法とぶつかることもよく経験します。
 救急医療に携わる方々から、最近は救急隊や医師の指示に従ってくれない人が増えて苦労するという話を聞いたことがあります。自説とは違う人の意見をいったん受け入れるというのは、時として勇気を必要とします。どうしても自分の考えを通さないと気が済まないということもあるのでしょう。しかしそれが本当に自分のためになっているのかというと少々疑問も残ります。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」とか「可愛い子には旅をさせよ」などと言いますが、時には少し勇気を出して我が身を突き放してみるのもいいような気がします。必死でしがみつくことばかりが大切な何かを守る道なのではなく、「ああ、いいですよ」とか「まあ、そういう考え方もあるね」と人を受け入れるあり方も回り回って我々を助けてくれそうです。
 今年も残り少なくなってきました。この一年自分でもそれなりには頑張ったつもりです。しかし何より今年も自分を周囲で支えてくれた、多くの人々の手と手に感謝を忘れずに年を締めくくりたいと思います。

もみじ12月号 四方山話より