2009年10月

今年の9月には大型連休が実現され、この機会にどこかへお出かけの方も多かったと思います。今年はETC普及と高速道路料金値下げのおかげで、マイカーを利用した観光もかなり増えたと聞いています。加えてエコカー減税なる政策もあり、自動車の購入や活用への振興策は最近ではお馴染みになりました。実際に当院への通院や通勤にも、車は大切な役割を果たしています。
 いきなり私事ですが、9月には親戚や友人との集まりで尾道へ行く機会がありました。この街は因島へ帰省する際に必ず通ってきた場所であり、尾道水道にかかる大橋、港や造船所のクレーンなど独特の景観には子供の頃から馴染みがあります。倉敷から山陽本線に乗り、尾道で降りたら駅前の桟橋から連絡船に乗っていました。向島の周縁を巡って因島まで数十分の短い船旅でしたが、船に乗れるのは子供心にいつも嬉しくて楽しいものでした。連絡船が島の桟橋に近づくにつれて、手を振りながら待っている祖父の姿がだんだん大きくなって来た様子をよく覚えています。
 こうした瀬戸内海の連絡船は、本四架橋が整備されてから次第に衰退しています。尾道の桟橋も今は大半が公園になっていて、駅前の風景は30年前とは大きく変わりました。橋や高速道路による車社会の発達につれて、因島だけでなく広島県と愛媛県に無数にある島々の住民にとって生活の足である船の便が減ってきたということです。船を利用して他の島まで週三回透析を受けに行っている患者さんの不安が、地元の新聞で報じられていました。もし高速道路が無料化されれば、更に渡船会社の経営が苦しくなることが予想されています。赤字のローカル線やバス路線が廃止の危機にあるのと同じ構造がここにあります。
 あちらを立てればこちらが立たず、という難問は私たちの身の回りにいくらでもあります。車のない生活はとてもまだ考えにくいのが現況ですが、例えば子供の交通事故や環境への影響など負の側面があるのも事実です。鈍行列車や連絡船のよさもまた単なる昔懐かしさを超えたところで見直されて良いのでしょう。

もみじ10月号 四方山話より