2007年6月
 最近あった愛知の立てこもり事件で、若い警察官が殉死されたことは記憶に新しいと思います。時に不祥事などが報道されることもありますが、やはり警察官とは体を張って市民の安全を守る大変な仕事なのだなと再認識させられました。世に様々な仕事がある中で、医療に携わる者として私は消防や警察の方々に近いものを感じる時があります。殉職までするわけではありませんが、私達の行う医療には盆暮れ正月も祝祭日もありませんし、夜間や日曜日でも休みが保証されているわけではありません。ただ別に気負っているわけではなく、同じく医師であった私の父や祖父の姿と同じことをしているだけだとも言えます。
 医療機関というのは商売でやっているのか、それともボランティアか、という聞き方をされることがあります。私にとってはどちらでもなく、医療は医療だとしか言いようがありません。最近は医療の世界にも『経営』や『経済性』といった、お店や企業で使われる言葉がしっかりと入り込んだ感がありますが、消防や警察と同じく医療機関も本来営利目的で運営されているわけではないと思います。確かに医療人も仙人ではありませんからカスミを食べて生きていくわけにもいきませんし、公営機関でない以上は施設運営のためのお金は自分たちでやり繰りすることが求められます。国からの医療費は更に削減されるようであり、特に当院のような診療所に対しては厳しい方向も打ち出されています。ただ社会がどう変ろうと医療は必要ですし、だからこそ地域の方々の生活を支えるという意識は欠くべからざるものであると思います。このあたりが消防や警察と似ているのでしょう。『サービスを向上』して、『患者様に選ばれる』医療機関もいいのですが、利益や快適さを追求する方向へ傾き過ぎることには危険を感じます。殉職された方の葬儀には千人を超える弔問者があったという報道を読みながら、先代からこの仕事を受け継いだ私たちが担うべき使命と責任の意味を改めて考えさせられました。
 6月3日は前院長の三度目の命日に当たります。日曜日なので「どこか遊びに連れて行ってよ」とやかましい子供達にも、じいさんの遺影に線香でも立てさせようと思います。
もみじ6月号 四方山話より