2007年3月
 節分が過ぎたと思ったらもう桃の節句が近くなりました。記録的な暖冬のおかげでひな祭りとお花見が一度に出来そうな陽気です。こうした時候の話題というのは、文章の書き出しとしてよく用いますが、知り合い同士顔を合わせた時にも格好の材料になります。「今日はいいお天気様でございますこと」、「お寒うございますね」とまで言ってしまうと古い映画のようでやりすぎでしょう。しかし「今日は」「お疲れ様です」というだけの挨拶に天気や時候の話を挟んだ方が、何だか温かみがあるように感じられる時もあります。
 急いでいる時にのんびりお天気の話などされても困るということはあるかも知れません。できることならあまり口をきかずにすませたい人もいることでしょう。天候や暑さ寒さの話なんかしなくても、別に生活上困ることもないと言われたら確かにそうだと思います。しかし挨拶や何気ない話は一人ではできないことで、相手や周囲の人があって自分の毎日が成り立っているということを思い起こさせてくれます。時候や天候の話題とは、誰とでも交わせる重宝な言葉の道具でもあるように思います。
 「巧言令色少なし仁」とか「沈黙は金」などと、言葉を飾ることを戒める格言は多いようです。余計な事を喋らず黙々と務めを果し仕事をこなす姿は確かに美しいものです。医療という仕事には世間話など不要のものだという考え方もあるかもしれません。一日に何百、何千という患者さんが押し寄せる大病院なら尚更のことです。ただ医療とは直接関係のない話も多少はしている病院があるのもまた許されはしないでしょうか。スピードや効率も大切でしょうが、四季の移り変わりや折々の行事などを、皆さんと一緒に感じながら毎日を積み重ねていきたいと私は考えております。
もみじ3月号 四方山話より