2006年10月
 稲穂が黄金色に実る季節となりました。総社近辺では稲刈りに精の出る方も多くおられます。梨に葡萄、蜜柑など秋には様々な作物が実りの時期を迎えますが、やはりお米の収穫は私にとっても身近な秋の節目です。実際にお米を作っている方にとってはなおさらのことでしょう。お米作りは何かと手のかかる大変な仕事で、また父祖から受け継ぎ子供や孫に伝えていく大切なことだと言われる方もおられます。稲作だけで生計をたてるお宅はもう少ないのでしょうが、それでも田んぼというものはお米を育てる人々にもそうでない人々にとっても様々な記憶と共に、生活の感覚にしみこんでいるのではないでしょうか。手間暇のかかる水田での稲作は、我々日本人の勤勉さの源のように考えられてきました。また私の父の田舎、瀬戸内海の因島では蜜柑作りが盛んに行われています。これも楽な仕事ではありませんが、私の思い出の中では因島と蜜柑を切り離して考えることはできません。
 「美しい国」という言葉が新政権の発足を前にして取り沙汰されています。新しく首相になる方の言う「美しさ」が何を意味しているのかはまだ私には分かりませんが、緑の田んぼも蜜柑の山も、美しい日本の風景としては欠かすことのできないものでしょう。ただ天候や災害にも大きく左右される仕事であり、様々な理由で農業を続けるのが難しい事情もあると伺っております。ただ、実際に作物を作るのは無理でも地道に日々の仕事に取り組み、大切に何かを育てていく精神を上の世代から受け継いでいくことは素晴らしいと思います。
 お米や蜜柑に限らず、育てるという仕事は地道で悩み多く、なかなか思い通りにならないもののようです。しかしそれだけに見事に育った時期を迎えた喜びと満足はひとしおのものでしょう。そうした営みはいかにも地味で、周囲から賞賛されるような華やかさは少ないのかもしれませんが、それこそ美しいという言葉にふさわしいと思います。
 しかし鼻水を垂らして大声で騒ぎながらドタバタと走り回るうちの娘は、果たして美しく成長してくれるのでしょうか・・・
もみじ10月号 四方山話より