2004年11月

この「もみじ」の紙面にしてからがそうなのですが、最近は“患者さん”より“患者様”という呼び方が増えてきているようです。先日ある雑誌にこの両者の呼び方のどちらがいいかという記事が掲載されておりました。皆さんはどう思われるでしょうか。「“患者様”の方がより丁寧であり患者中心の医療を行う姿勢が感じられる」「様、なんて慇懃無礼だ。さん、の方が暖かみがあっていいではないか」個人の好みもあることでしょうし、この議論の決着は簡単には付きそうにありません。

サービス業での言葉遣いや身のこなしを“接遇”と称しまして、最近では医療の世界でもきちんとした接遇が求められるようになりました。洗練された応対というのは確かに心地よく感じられるものですが、言葉やお辞儀の仕方が丁寧であれば即ち相手を敬っているということになるのでしょうか。

建前と本音、内と外を使い分けるといいますか、自分の本心はどうあれ表面はその時の状況や相手に合わせておくのが社会生活を円滑にする知恵である、というのは一面の真理ではあると思います。いつでもどこでも人がお互いの本心をぶつけ合っていたら大変なことになりそうです。ただ自分の正直な考えや感じ方を、何処までも隠しおおせるほど器用で我慢強い人がどれだけいるでしょう。「眼は口ほどに物を言い」とは少し違うかもしれませんが表面をどんな言葉で飾っても、その人の心のありようというのは案外あっさりと人に伝わってしまうことも多いように思います。例えば私がいくら口で“患者様のため”と繰り返してみても内実が伴っていなければいずれ周囲から見放されてしまうでしょう。

「思うだけではなく言葉にして下さい。行動に移して下さい」「言うだけじゃわからん。もっと誠意を見せろ」などと具体的な形を要求される場面は世の中にあふれています。医療現場での接遇もきちんとする必要はあります。ただどうでしょう。本当に相手のことを思い気遣っているのなら、その気持ちは自ずと姿勢や言動として表れるのではないでしょうか。また傍からは見えにくいところでの努力も、積み重なれば人に何かを伝えるのではないでしょうか。外から形を整えることも大切でしょうが、心を込めるということがもうちょっと見直されてもいいように思います。“様づけ”にするか“さんづけ”にするかはあまりこだわらないことにさせて頂きます。

もみじ11月号 四方山話より